2回目も申請できる?デジタル化・AI導入補助金の複数回申請と賃上げ要件
公開日:2026年8月3日 更新日:2026年8月3日
「以前IT導入補助金を使ったけれど、また申請できるのか」——結論としては申請できます。ただし2026年度は、過去に交付決定を受けた事業者に対して追加の要件が課されました。ここを知らずに申請すると、要件を満たせずに落ちるか、後から返還リスクを抱えることになります。この記事で条件を正確に押さえてください。
- 2回目以降でも申請できるのか
- 2026年度から追加された再申請の要件
- 賃上げ要件の中身(給与支給総額・事業場内最低賃金)
- 賃上げを宣言すると何が有利になるか
- 未達だった場合のリスク
- よくある質問
2回目以降も申請できる
デジタル化・AI導入補助金には「一度使ったら二度と使えない」というルールはありません。過去にIT導入補助金の交付決定を受けた事業者も、改めて申請できます。
実際、次のような使い方は珍しくありません。
- 1回目:会計・請求まわりをインボイス対応にした
- 2回目:整備の受付から作業指示までを扱う基幹システムを導入した
- 3回目:サイバーセキュリティ対策のサービスを導入した
ただし、同一年度内に同じ内容で重複して交付を受けることはできません。また、年度をまたぐ場合でも「実質的に同じツールの買い直し」は認められにくくなります。
2026年度から追加された再申請の要件
ここが今年の最大の変更点です。過去にIT導入補助金・デジタル化・AI導入補助金の交付決定を受けたことがある事業者が再申請する場合、次の条件が求められます。
具体的には、年平均成長率3%以上(物価安定目標を一定以上上回る水準)を計画に織り込む必要があります。
この趣旨は明確で、「補助金でIT投資をして生産性が上がったなら、その成果を従業員の処遇にも還元してほしい」ということです。裏を返せば、初回申請の事業者より一段高いハードルが設定された、ということになります。
「毎年なんとなく申請する」は想定されていない
この要件により、補助金を継続的に使う場合は投資と賃上げをセットで示す必要が出てきました。単に安くシステムを入れ替える手段として毎年使う、という発想では通りにくくなっています。
賃上げ要件の中身
再申請の場合に限らず、通常枠で補助申請額が150万円以上になる場合などにも賃上げに関する要件が設定されています。押さえるべき指標は2つです。
| 指標 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 給与支給総額 | 従業員と役員に支払う給与・賞与などの総額 | 年平均成長率3%以上。「1人あたり」ではなく総額で見る |
| 事業場内最低賃金 | その事業場で最も低い賃金水準 | 地域別最低賃金+30円以上の水準にする |
給与支給総額は「総額」であることに注意
給与支給総額は総額で判定されるため、従業員が増えれば自然に伸びます。逆に、退職者が出て人員が減ると、1人あたりの給与を上げていても総額が下がることがあります。整備士の採用が難しい状況で人員が減る前提なら、この要件は現実的かどうかを慎重に見極める必要があります。
事業場内最低賃金は毎年の最低賃金改定も見る
地域別最低賃金は毎年改定されます。基準が動く前提で余裕をもった水準に設定しておかないと、翌年に自動的に未達になることがあります。
賃上げを宣言すると何が有利になるか
- 補助率が上がる場合がある:枠によっては、賃上げ等の要件を満たすことで補助率が1/2から2/3に引き上げられます。
- 加点になる:賃上げに積極的に取り組む事業者は審査で加点対象になります。
- 一定額以上の申請では必須:通常枠で補助申請額が大きい場合、そもそも要件として求められます。
未達だった場合のリスク
ここは必ず理解しておいてください。賃上げを宣言して優遇を受けたにもかかわらず目標を達成できなかった場合、補助金の返還を求められる可能性があります。
労働生産性の向上目標(1年後3%以上、3年平均3%以上)の未達とは扱いが異なります。労働生産性は「努力目標」に近い位置づけですが、賃上げは宣言に対する約束という性格が強いのです。
2回目の申請を成功させる組み立て方
1. 前回の効果報告を必ず済ませておく
過去の効果報告が未提出だと減点対象になります。まずは自社の提出状況を確認してください。詳しくは効果報告の記事をご覧ください。
2. 前回と違う課題を解決する構成にする
「前回は請求業務、今回は整備の受付と作業指示」のように、解決する業務プロセスが前回と重ならない構成にすると、計画の説明がしやすくなります。
3. 前回の導入効果を数字で示す
2回目の申請では「前回の投資がどう効いたか」を語れることが強みになります。前回導入したシステムから出せる実数を用意しましょう。
4. 給与計画を先に固める
賃上げ要件がある以上、事業計画より先に給与の3年計画を作る方が現実的です。そのうえで、それを支える売上・粗利の計画を組み立てます。
賃上げ計画の作り方(数値例)
「年平均成長率3%以上」と言われても、実際にどのくらいの金額なのかがイメージしづらいものです。給与支給総額2,400万円の工場を例に、3年間の推移を見てみます。
| 年度 | 給与支給総額 | 前年比 | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 基準年度 | 2,400万円 | — | — |
| 1年目 | 2,472万円 | +3.0% | +72万円 |
| 2年目 | 2,546万円 | +3.0% | +74万円 |
| 3年目 | 2,623万円 | +3.0% | +77万円 |
| 3年間の増加合計 | 約223万円 | ||
従業員6名なら、3年目には1人あたり年間で約37万円、月あたり約3.1万円の増額に相当します。これを支えるだけの粗利益の増加が必要になる、ということです。
賃上げは粗利益の増加が先です。年間223万円の給与増を支えるには、同程度以上の粗利益の上積みが要ります。整備工場なら、入庫台数を増やすのか、単価を上げるのか、外注を内製化するのか、事務作業を削って稼働時間を増やすのか——どの手段で原資を作るのかを先に決めてから、賃上げ率を決めてください。
事業場内最低賃金の考え方
もう一つの指標が事業場内最低賃金です。地域別最低賃金+30円以上の水準を維持する必要があります。
ここで注意したいのが、地域別最低賃金は毎年改定されるという点です。改定額が大きい年は、何もしなければ翌年に基準を下回ってしまいます。
- 最低賃金に近い時給の従業員(パート・見習いなど)がいる場合、毎年の見直しが必須です
- ギリギリの水準に設定せず、余裕をもたせることをおすすめします
- 改定は例年秋ごろに発効します。年度のどのタイミングで判定されるかを確認してください
賃上げを宣言しないという選択
賃上げ要件が現実的でない場合、あえて宣言しない構成にするという選択もあります。
| 賃上げを宣言する | 宣言しない | |
|---|---|---|
| 補助率 | 枠によっては引き上げ(例:1/2→2/3) | 基本の補助率 |
| 加点 | あり | なし |
| 申請できる補助額 | 大きい額も可能 | 要件がかかる金額未満に抑える必要がある場合も |
| 未達時のリスク | 返還を求められる可能性 | なし |
補助額を数十万円増やすために、3年間の返還リスクを背負う必要があるのか——ここは経営判断です。「取れる補助金を最大化する」ことが常に正解とは限りません。
2回目申請のチェックリスト
- □ 前回の補助事業の効果報告をすべて提出済み
- □ 前回の賃上げ宣言があれば、その目標を達成している
- □ 今回申請するツールが前回と重複していない
- □ 3年間の事業計画(給与年平均成長率3%以上)を作成できる
- □ その計画を支える粗利益の増加見込みがある
- □ GビズID・SECURITY ACTIONが有効
- □ 前回の導入効果を数字で説明できる
効果報告の詳細は効果報告の記事、審査で見られる点は採択率と不採択理由の記事をご覧ください。
よくある質問
- Q. IT導入補助金は毎年使えますか?
- A. 制度上は複数年にわたる申請が可能です。ただし2026年度からは、過去に交付決定を受けた事業者に3年間の事業計画と給与年平均成長率の要件が課されます。
- Q. 同じ年度に2回申請できますか?
- A. 同一年度に同じ内容で重複して交付を受けることはできません。不採択だった場合の再申請は可能です。
- Q. 給与支給総額に役員報酬は含まれますか?
- A. 給与支給総額の定義は公募要領で定められています。役員報酬の扱いを含め、算定範囲は必ず最新の公募要領で確認してください。
- Q. 賃上げを宣言しないと申請できませんか?
- A. 補助申請額が一定未満であれば、賃上げを宣言せずに申請できる場合があります。ただし過去に交付決定を受けた事業者の再申請には別途の要件があります。
- Q. 従業員が減って給与総額が下がりそうです。どうすればいいですか?
- A. 無理に宣言すると返還リスクを抱えます。補助申請額を抑えて要件のかからない構成にする、といった選択肢も含めて設計するのが現実的です。
まとめ
- 過去に交付決定を受けていても再申請できる。
- ただし2026年度は3年間の事業計画+給与支給総額の年平均成長率3%以上が要件。
- 給与支給総額は「総額」で判定。人員が減ると達成が難しくなる。
- 事業場内最低賃金は地域別最低賃金+30円以上。最低賃金は毎年改定される。
- 賃上げ宣言は補助率アップ・加点につながるが、未達なら返還リスク。
- 達成が難しいなら宣言しない構成も選択肢。補助額の最大化が常に正解ではない。
- 再申請の前に前回の効果報告を提出済みかを必ず確認する。
賃上げ要件を含めた申請構成のシミュレーションもお手伝いします。無理のない設計から一緒に考えましょう。
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