2回目も申請できる?デジタル化・AI導入補助金の複数回申請と賃上げ要件
公開日:2026年8月3日 更新日:2026年10月4日
「以前IT導入補助金を使ったけれど、また申請できるのか」——結論としては申請できます。ただし2026年度は、IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者に対して追加の要件が課されました。ここを知らずに申請すると、要件を満たせずに落ちるか、後から返還リスクを抱えることになります。この記事で条件を正確に押さえてください。
- 2回目以降でも申請できるのか
- 2026年度から追加された再申請の要件
- 賃上げ要件の中身(給与支給総額・事業場内最低賃金)
- 賃上げを宣言すると何が有利になるか
- 未達だった場合のリスク
- よくある質問
2回目以降も申請できる
デジタル化・AI導入補助金には「一度使ったら二度と使えない」というルールはありません。過去にIT導入補助金の交付決定を受けた事業者も、改めて申請できます。
実際、次のような使い方は珍しくありません。
- 1回目:会計・請求まわりをインボイス対応にした
- 2回目:整備の受付から作業指示までを扱う基幹システムを導入した
- 3回目:サイバーセキュリティ対策のサービスを導入した
ただし、通常枠の交付決定は年度内に1回までです(インボイス枠・セキュリティ対策推進枠は別に申請できます)。また、2024・2025年に交付決定を受けたソフトとプロセスが重なると減点され、完全に一致すると不採択になります。IT導入補助金2025の通常枠で交付決定を受けた事業者は、交付決定日から12か月間は通常枠に申請できません。
2026年度から追加された再申請の要件
ここが今年の最大の変更点です。IT導入補助金2022〜IT導入補助金2025の間に交付決定を受けた事業者が申請する場合、次の条件が求められます。
具体的には、年平均成長率3.5%以上(物価安定の目標+1.5%。1人当たり給与支給総額で判定)を計画に織り込む必要があります。従業員への表明も必須です。
この趣旨は明確で、「補助金でIT投資をして生産性が上がったなら、その成果を従業員の処遇にも還元してほしい」ということです。裏を返せば、初回申請の事業者より一段高いハードルが設定された、ということになります。
「毎年なんとなく申請する」は想定されていない
この要件により、補助金を継続的に使う場合は投資と賃上げをセットで示す必要が出てきました。単に安くシステムを入れ替える手段として毎年使う、という発想では通りにくくなっています。
賃上げ要件の中身
再申請の場合に限らず、通常枠で補助申請額が150万円以上になる場合などにも賃上げに関する要件が設定されています。押さえるべき指標は2つです。
| 指標 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 給与支給総額 | 1人当たり給与支給総額=非常勤を含む全従業員の給与支給総額÷従業員数。役員報酬・福利厚生費・法定福利費・退職金は除く | 年平均成長率3%以上(IT導入補助金2022〜2025の交付決定者は3.5%以上)。総額ではなく「1人当たり」の給与支給総額で見る |
| 事業場内最低賃金 | その事業場で最も低い賃金水準 | 地域別最低賃金+30円以上の水準にする(補助申請額150万円以上では必須。150万円未満なら加点項目) |
給与支給総額は「1人当たり」で判定することに注意
給与支給総額は従業員1人当たりの額で判定されるため、従業員が増えても自然には伸びません。人員の増減で総額が動いても、それだけでは判定に影響しません。逆に、給与水準の低い従業員を増やすと1人当たりの額が下がることがあります。採用計画とあわせて、この要件は現実的かどうかを慎重に見極める必要があります。
事業場内最低賃金は毎年の最低賃金改定も見る
地域別最低賃金は毎年改定されます。基準が動く前提で余裕をもった水準に設定しておかないと、翌年に自動的に未達になることがあります。
賃上げを宣言すると何が有利になるか
- 補助率は上がらない:賃上げを宣言しても補助率は変わりません。通常枠で2/3以内になるのは、最低賃金近傍の事業者(地域別最低賃金の近くで雇う従業員が全従業員の30%以上)に当たる場合です。
- 加点になる:賃上げに積極的に取り組む事業者は審査で加点対象になります。
- 一定額以上の申請では必須:通常枠で補助申請額が150万円以上の場合と、IT導入補助金2022〜2025の交付決定者は、そもそも要件として求められます。
未達だった場合のリスク
ここは必ず理解しておいてください。賃上げが必須の申請で目標を達成できなかった場合、補助金の返還を求められることがあります(加点のために宣言しただけなら、未達の報告から18か月間、中小企業庁所管の補助金で大幅に減点)。
労働生産性の向上目標(1年後3%以上、3年平均3%以上)の未達とは扱いが異なります。労働生産性は「努力目標」に近い位置づけですが、賃上げは宣言に対する約束という性格が強いのです。
2回目の申請を成功させる組み立て方
1. 前回の効果報告を必ず済ませておく
賃上げが必須の申請で効果報告を出さないと、補助金の返還対象になります。また、IT導入補助金2022〜2025の交付決定者であること自体が審査の減点項目です。まずは自社の提出状況を確認してください。詳しくは効果報告の記事をご覧ください。
2. 前回と違う課題を解決する構成にする
「前回は請求業務、今回は整備の受付と作業指示」のように、解決する業務プロセスが前回と重ならない構成にすると、計画の説明がしやすくなります。2024・2025年に交付決定を受けたソフトとプロセスが重なると減点、完全に一致すると不採択です。
3. 前回の導入効果を数字で示す
2回目の申請では「前回の投資がどう効いたか」を語れることが強みになります。前回導入したシステムから出せる実数を用意しましょう。
4. 給与計画を先に固める
賃上げ要件がある以上、事業計画より先に給与の3年計画を作る方が現実的です。そのうえで、それを支える売上・粗利の計画を組み立てます。
賃上げ計画の作り方(数値例)
「年平均成長率3.5%以上」と言われても、実際にどのくらいの金額なのかがイメージしづらいものです。1人当たり給与支給総額400万円(従業員6名、役員報酬は除く)の工場を例に、3年間の推移を見てみます。
| 年度 | 給与支給総額 | 前年比 | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 基準年度 | 400万円 | — | — |
| 1年目 | 414.0万円 | +3.5% | +14.0万円 |
| 2年目 | 428.5万円 | +3.5% | +14.5万円 |
| 3年目 | 443.5万円 | +3.5% | +15.0万円 |
| 3年間の増加合計 | 1人当たり約43.5万円(6名で約261万円) | ||
従業員6名なら、3年目には1人あたり年間で約43.5万円、月あたり約3.6万円の増額に相当し、6名分では年間約261万円です。これを支えるだけの粗利益の増加が必要になる、ということです。
賃上げは粗利益の増加が先です。年間約261万円の給与増を支えるには、同程度以上の粗利益の上積みが要ります。整備工場なら、入庫台数を増やすのか、単価を上げるのか、外注を内製化するのか、事務作業を削って稼働時間を増やすのか——どの手段で原資を作るのかを先に決めてから、賃上げ率を決めてください。
事業場内最低賃金の考え方
もう一つの指標が事業場内最低賃金です。地域別最低賃金+30円以上の水準を維持する必要があります(補助申請額150万円以上では必須。150万円未満なら加点項目)。
ここで注意したいのが、地域別最低賃金は毎年改定されるという点です。改定額が大きい年は、何もしなければ翌年に基準を下回ってしまいます。
- 最低賃金に近い時給の従業員(パート・見習いなど)がいる場合、毎年の見直しが必須です
- ギリギリの水準に設定せず、余裕をもたせることをおすすめします
- 改定は例年秋ごろに発効します。年度のどのタイミングで判定されるかを確認してください
賃上げを宣言しないという選択
IT導入補助金2022〜2025の交付決定を受けていない事業者で、賃上げ要件が現実的でない場合、あえて宣言しない構成にするという選択もあります。
| 賃上げを宣言する | 宣言しない | |
|---|---|---|
| 補助率 | 変わらない(賃上げの宣言では上がらない) | 基本の補助率 |
| 加点 | あり | なし |
| 申請できる補助額 | 大きい額も可能 | 要件がかかる金額未満に抑える必要がある場合も |
| 未達時のリスク | 必須の申請なら返還の可能性、加点のみなら18か月の大幅減点 | なし |
補助額を数十万円増やすために、3年間の返還リスクを背負う必要があるのか——ここは経営判断です。「取れる補助金を最大化する」ことが常に正解とは限りません。なお、IT導入補助金2022〜2025の交付決定者は金額にかかわらず賃上げ目標(1人当たり3.5%以上)が必須なので、宣言しない選択はできません。
2回目申請のチェックリスト
- □ 前回の補助事業の効果報告をすべて提出済み
- □ 前回の賃上げ宣言があれば、その目標を達成している
- □ 今回申請するツールが前回と重複していない
- □ 3年間の事業計画(1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上)を作成できる
- □ その計画を支える粗利益の増加見込みがある
- □ GビズID(有効期限内)・SECURITY ACTION(2026年4月開始の新システムで取得したID)が有効
- □ 前回の導入効果を数字で説明できる
効果報告の詳細は効果報告の記事、審査で見られる点は採択率と不採択理由の記事をご覧ください。
よくある質問
- Q. IT導入補助金は毎年使えますか?
- A. 制度上は複数年にわたる申請が可能です。ただし2026年度は、IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者に、3年間の事業計画と1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上の要件が課され、審査でも減点されます。IT導入補助金2025の通常枠の交付決定者は、交付決定日から12か月間は通常枠に申請できません。
- Q. 同じ年度に2回申請できますか?
- A. 通常枠は年度内に1申請・1交付決定までです。インボイス枠とセキュリティ対策推進枠は別に申請できます。不採択だった場合や交付決定後に取り下げた場合の再申請は可能です。
- Q. 給与支給総額に役員報酬は含まれますか?
- A. 含まれません。公募要領では、1人当たり給与支給総額は非常勤を含む全従業員の給与支給総額を従業員数で割ったもので、役員報酬・福利厚生費・法定福利費・退職金は除きます(従業員を雇っていない法人は役員に読み替えます)。
- Q. 賃上げを宣言しないと申請できませんか?
- A. 補助申請額が150万円未満であれば、賃上げを宣言せずに申請できます。ただしIT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者は、150万円未満でも1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上と従業員への表明が必須です。
- Q. 従業員が減って給与総額が下がりそうです。どうすればいいですか?
- A. 判定は1人当たり給与支給総額なので、人員が減ること自体で直ちに未達にはなりません。1人当たりの給与を3年間伸ばせるかで判断してください。無理に宣言すると返還リスクを抱えるため、補助申請額を抑えて要件のかからない構成にする(IT導入補助金2022〜2025の交付決定者を除く)、といった選択肢も含めて設計するのが現実的です。
まとめ
- 過去に交付決定を受けていても再申請できる。
- ただし2026年度は3年間の事業計画+1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上(IT導入補助金2022〜2025の交付決定者)が要件。
- 給与支給総額は「1人当たり」で判定(役員報酬は除く)。人員の増減より1人当たりの給与水準が問われる。
- 事業場内最低賃金は地域別最低賃金+30円以上(150万円以上の申請で必須)。最低賃金は毎年改定される。
- 賃上げ宣言は加点につながるが、必須の申請で未達なら返還、加点のみなら18か月の大幅減点。
- 達成が難しいなら宣言しない構成も選択肢。補助額の最大化が常に正解ではない。
- 再申請の前に前回の効果報告を提出済みかを必ず確認する。
賃上げ要件を含めた申請構成のシミュレーションもお手伝いします。無理のない設計から一緒に考えましょう。
デジタル化・AI導入補助金の申請、まるごとサポートします
日本カーネットはIT導入支援事業者として、自動車整備システム・車両販売システム・鈑金見積システムの導入と補助金申請を一括でお手伝いします。
「うちは対象になる?」「何がいくら戻る?」の段階からご相談ください。相談は無料です。
あわせて読みたい関連コラム
IT導入補助金の締切はいつ?デジタル化・AI導入補助金 6次10/30・7次12/1に間に合わせる準備
IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金2026)の次回締切は6次10月30日、7次12…
効果報告はいつまで?何年続く?デジタル化・AI導入補助金の事業実施効果報告
デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の事業実施効果報告について解説します…
整備工場が使える補助金まとめ2026|デジタル化・AI導入補助金との併用可否
自動車整備工場が2026年に使える補助金を一覧で整理しました。スキャンツール補助金、デジタ…
補助金の会計処理|圧縮記帳・仕訳・勘定科目と消費税の扱いをわかりやすく
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)を受け取ったときの会計処理を解説します。補助…
AI導入補助金とは?生成AI・AIツールが対象になる条件と整備工場での使い方【2026年度】
AI導入補助金(デジタル化・AI導入補助金2026)で生成AIやAI機能付きITツールが対…
インボイス枠とセキュリティ対策推進枠の違い|デジタル化・AI導入補助金2026の補助率・上限・対象
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)のインボイス枠(インボイス対応類型・電子取引…